米国領なのに銃が禁止という島

「銃大国に丸腰の島 米領サモア、独自に禁止 警官、手錠だけ」という朝日新聞の記事(5月21日付)はいい。日本ではめったに報道されることのない米領サモアが、アメリカ本土やハワイと違い、銃の保持が禁止されているというのだ。


アメリカの国旗

米領サモアの旗。1960年4月24日に制定。
縦横比10:20は国旗「星条旗」の10:19よりも横長。鳥はアメリカの国鳥ハクトウワシ。ハクトウワシはサモアの首長たちの象徴。すなわち、右で首相の権威であるハタキ状の飾りをつかみ、左で棍棒を握る。もちろん銃は描かれていない。

1962年1月1日の独立時に採択されたサモア(正式にはサモア独立国)の国旗。
ニュージーランドと特別の関係にあり、ともに南十字星を描いた国旗となっている。

米領サモアは、南太平洋のポリネシアの5つの島と環礁から成る。米国の領土としては南半球で唯一。しかし、政治的には、島民に米大統領選の参加資格はなく、オブザーバーとして議決権を持たない代表を本土の下院に送ることができるだけ。日付変更線を越えた西には、日付変更線を変えたサモア独立国がある。

記事を紹介したい(一部略)。

銃大国・米国の領土なのに、銃の所持が禁じられている地域がある。南太平洋に浮かぶ島、米領サモア=キーワード=だ。警察官ですら銃を持たない「最後の楽園」を訪ねた。

パゴパゴ国際空港に降り立つと、待ち受けていたのはエックス線装置だった。

サマセット・モームの短編「雨」の舞台となった島だけあり、降雨量は年5千ミリにもなる。猛暑と雨で蒸し風呂のような空港内。係官がご丁寧に荷物をひとつずつ手にとって調べる。

銃を一丁たりとも島に持ち込ませないための荷物検査だという。島では短銃の所有が一切禁じられ、警察官すら丸腰。例外は野豚から農作物を守るための特定のライフルだけだ。

「人口5万5千人。島民すべてが顔見知りの社会で銃を許したら、収拾がつかなくなる」。最初に訪ねたサル・フンキンフィナウ教育省長官はそう語った。

■多発する密輸、警官所持論も

「法の番人」はどう考えているのか。警察本部の前で警官に話しかけると「持っているのは本当に手錠だけ」と自嘲気味に笑った。

巻きスカートのような島の正装で現れたウィリアム・ハレック本部長(69)は銃所持派だった。「日本で警官は銃を持っているだろう? ここに銃を持った凶漢が入ってきても防げない。バンバンだ」と指を銃のかたちにして力説する。今年1月の就任時に議会で警官の銃所持を主張し、いま島で議論になっている。

時代は変わった、と本部長は言う。「3年前の射殺事件のとき、警官たちは丸腰で犯人に飛び掛かったんだよ」。

この事件後も警官の銃所持を認めず、今年1月に任期を終えたトジオラ・トゥラフォノ前知事(66)に、話を聞くことができた。

「警官が銃を持ったら、危険な社会になったと市民は思うだろう。米国ではみんなが銃を持つから、自分も持たなければ身を守れないと感じる。ならば、誰も持たなければいいんだ」。

言葉の端々に、3億丁の銃がはんらんする米国への批判が交じる。「銃所持は憲法で認められた権利だなんて身の毛がよだつ。家に軍用銃があるなんて、まともじゃないだろう」。

■イラク従軍、高い戦死率 職なき若者、続々と志願

米国であって米国でない。それが米領サモアだ。米国に従属しつつ、独自の法律や政府を持っている。

そんな、大国の辺境で生きることの過酷さを示す数字がある。イラク戦争に従軍した兵の州、地域ごとの戦死率をみると、人口10万人中8.6人と米領サモアが飛び抜けて高いのだ。

銃のない島に生まれた若者が、戦場で死んでいく。これ以上の皮肉はない。この事実を前にすると、前知事の言葉が重みを増す。

「ここは米国の最後の植民地だ。自治政府があっても、米国の意向には逆らえない。島民は従属から脱したいと思う半面、見捨てられるのを恐れてもいる」

トゥラフォノ前知事は、こう最後に付け加えた。

「でも、ここでは銃所持について米国の憲法議論は起きない。全米ライフル協会もここまでは来ない」

小さな島の銃規制。それは、「米国の論理」に押しつぶされないための最後の抵抗なのかもしれない。

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