国歌に出てくる国旗の物語

国旗について著書を出したり、メディアで話したりすると、時々、国歌についても質問が来ることがあります。たとえば、先週、東京のあるテレビ局の方が、「国歌には国旗がどのくらい出てくるのですか?」と訊いてきました。自分で調べないのですから、ご気楽なものです。そういう人には私も少々てぬきをして答えます。「米国の国歌はその名も<「星条旗」>、他にも実に多いです。あとは必要なら何冊かの本をお貸ししますからお調べくださいでお引取り願いました。

その後、優しさだけが他人より上だと自認している私は、これでは少し気の毒をしたなと思いつつ、ざっと並べてみました。トルコ、コスタリカ、ニカラグア、エルサルバドル、ナウル、ジブチ、アルジェリア、アルバニアといった概して小さな国々の国歌です。そうそう、中国の国歌には「前進! 毛沢東の旗を掲げよ 前進! 旗を掲げよ」とありますから、これも国歌に登場する国旗と言ってもいいのかもしれません。

ところで、今年がちょうど200年目にあたるのですが、チャイコフスキーに有名な『大序曲1812年』はナポレオンがロシアに攻め入りやがて敗退する様を描く名曲です。前半にはフランスの国歌「ラ・マルセイエーズ」が何度も勇ましく登場し、フランス三色旗(トリコロール)を掲げたナポレオンの大軍がモスクワめざして攻め込む様子が想起されます。クツーゾフ将軍麾のロシア軍の反撃に遭い、音楽はやがて転調してさびしい響きで奏でられ、教会の鐘の音とともにロシア民謡風の音楽に変わって行くのです。この曲を聴くたびに、私の脳裏にはフランス、ロシア両国の国旗が対決して並び、入り乱れ、そして白青赤のヨコ三色旗であるロシアの国旗が次第に凌駕していくような映像を勝手に描いてしまうのです。

初演は、「イタリア奇想曲」とともに1882年8月20日(ユリウス暦8月8日)にモスクワの産業芸術博覧会で開催されたコンサートの一つで行われました。当時の評判は芳しくなかったようですが、1年後、チャイコフスキー自身の指揮でサンクトペテルブルクで演奏された際には大評判となったそうです。私は初演のとき、鐘の音は実際に多くの教会が一斉に撞き鳴らしたし、大砲も軍隊が空砲を撃ったのだと覚えていましたが、もしかして、このサンクトペテルブルクでの時のことかもしれません。どなたか教えていただければ幸いです。


フランスの国旗

ロシアの国旗

ナポレオンが大陸での戦争にかまけていたすきに隙を狙って、イギリスは同じ1812年、既に独立していたはずのアメリカに戦さを仕掛けました。第2次米英戦争です。米国の苦戦は大変なものでした。戦闘は、現在、ホワイトハウスと呼ばれている大統領官邸にまで及び、それまでの建物が硝煙でくすんだため、白いペンキを塗ったことに、この名前が由来しているのです。

1814年、詩人で弁護士のフランシス・スコット・キー(当時35歳)は、捕虜釈放交渉のため英国の軍艦に向ったのですが、翌日、総攻撃を決行することを知られたくないため英国軍により、艦内に留め置かれました。そしてその夜、英国艦隊は激しい砲撃を行なったのです。翌朝、キーは毅然として砦に立つ、耐え抜いた「星条旗」を目にしました。その時の「星条旗」は1795年5月1日にケンタッキー、バーモントの採択した15星15条のデザイン。この国旗はこのあと1818年7月3日まで23年(278ヶ月)間も続きました。この記録は20世紀になって、1912年7月から59年7月まで47年間続いた48星の「星条旗」、さらに、60年7月から今日まで52年間続いている50星の「星条旗」に次ぐ、長期間変わらなかった米国旗です。また、この時だけ「星条旗」の紅白の縞が15本(その時の州の数)であり、これ以外は全部、最初に独立した州の数13本となっています。

話を戻します。フランシス・スコット・キーがこの体験をもとに書き上げた詩が「マクヘンリー砦の防衛」。この詩が、当時よく歌われていた「天国のアナクレオンへ(To Anacreon in Heaven)」のメロディに充てられ、1931年3月3日には米国の国歌として正式に採択されました。曲は、今ではきわめて荘重に演奏されますが、それ以前はかなり軽妙に歌われた宴会用の節だったのだそうです。アナクレオンは古代ギリシアの詩人で、恋愛や酒を題材にした詩を書いた人物だそうです。

ロンドン五輪でも、きっと何度も表彰式で演奏されるのではないでしょうか。

米国の国歌「星条旗」、なかなかいい詩です。一度、読んでみませんか? 少し意訳してみました。


フランシス・スコット・キーがマクヘンリーの要塞に翌朝まで残っていた星条旗を見上げた感動を認めたのがアメリカの国歌「星条旗」。
「15星15条」の「星条旗」です。

Oh, say can you see, by the dawn’s early light
おお、見ずや、夜明けの薄明かりの中、

What so proudly we hailed at the twilight’s last gleaming?
我等誇り高く、声高に叫ぶ

Whose broad stripes and bright stars, through the perilous fight.
危難迫るさなか城壁に翻る

O’er the ramparts we watched were so gallantly streaming?
太き縞と輝ける星の旗。

And the rockets’ red glare, the bombs bursting in air,
砲弾炸裂続けどもわが旗は

Gave proof through the night that our flag was still there,
雄雄しく一晩中翻っていたのだ。

Oh, say does that star-spangled banner yet wave.
おお、「星条旗」はなお翻る

O’er the land of the free and the home of the brave!
自由の地 勇気満てる者の地に!

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