東京オリンピックの時のタディ④

憲法できまる国旗

─ ほかの国はどうしているのでしょう。

「たとえばナイジェリア国旗。ブリティッシュ・スタンダード・ナンバーのBF2660と憲法(2012年の注:これは本田記者の誤解で正しくは「国旗法」)で規定されてあるんです。アメリカの星条旗の青だって、ちゃんと色標番号できまっているんです」

─ ほう、よその国の国旗は憲法で規定されているのですか?

「わたしが調べたかぎりでは97か国。そのうち71か国が憲法できまっている。そのほかの国ではたいがい国旗法などの法律で規定してあります。法律でふれていないのは、10か国もありません。そのうちで“大国”といわれるのは日本くらいのものです」

─ それでは日の丸の根拠というのは法的にはないということですね。

「いや、ないかといわれれば太政官布告第57号というのがあるといわなければウソになるでしょうね。明治3年1月に出された古いヤツで、商船規則といわれているものです」

─ ではその規則によればいいではありませんか。

外務省でも違う旗

「それも一つの考えではありますが、実際的ではないという悩みがあるのです。布告によればタテ、ヨコの比は7対10で、円の大きさはタテの5分の3、そして円の中心は百分の一だけサオ側にずらすことになっている。しかも大、中、小を実際の寸法に規定してあって、小旗でもテーブルより大きいという不便なものなのです。だから実際では、こんな日の丸はどこも使っていませんよ。外務省のだって調べたら違う旗なんです」

─ なぜその規定を守らないのですか?

「円の中心を百分の一ずらすといったって美学的効果もたいしたことはない。だいいち旗屋さんがめんどうですからね。旗屋さんのつくっているのはほとんどが2対3ですね。世界の大半がそうだし、並べたときにその方がかっこうもいいし、自然、円の大きさだって大きいのあり、小さいのあり、まちまちになっていますね」

─ それではわたしたちが使っている旗は全部が全部違法というわけで…。

「いいえ、そうもいえないんです。布告57号は商船がかかげる旗の規則。一般国民の旗をしばるものではないというのが法務省の見解です。極端にいえば日本には正しい国旗がない。どんな日の丸をあげようが違法にはならないわけですね」

─ オリンピックはどの日の丸を使うのですか。

「それをぜひ決めていただきたいのです。お願いしますよ。ボクだって組織委員会の旗の仕事はまかされていますが、なにぶん1人の学生です。オリンピックで使った日の丸となれば、それが基準になって今後の日の丸がきまってしまうかもしれない。“お前なぜこの旗にきめた”ともし責められた場合、ボクだって困りますからね。根拠がないといえばないのだから」

国民感情を整理して

─ それが日の丸を製作保留にした原因ですか?

「そうなんですよ。ボク困ってるんです。主催国の旗だけきまらないなんて、まったく弱ってるんです。どうすればいいのですか?」

─ とくに戦後は、日の丸に対する国民感情が複雑で、そうした問題にわざとふれたがらない空気がたしかにありますね。

「だけどですよ。国旗のない国はないんですよ。日本ユネスコ協会連盟がいま世界の国旗巡回展をとりあげているのも、国旗知ることでその国の民族、宗教、歴史、生活、理想…を正しく理解するいとぐちができると考えているからなのです。そこから国際理解─協力が生まれるとわたしも思うのですが…」

─ しかし、いますぐ、どうこうといっても、日の丸に対する国民感情が整理できないうちはしかたないかもしれませんね。

国旗を尊重しよう

「国旗を大切にしようというとすぐ右翼と間違えられる。ボクはそんなのじゃないんだから、そこのところは、ぜひはっきりことわっておいてくださいよ。日の丸を特別にほかのよりどうこうというのではない。それは日本にだって、わるい面がいくらも残っています。でもいい点だって、いっぱいある。それをひっくるめて、自分のことがはっきりわからないで、どうしてひとのことを理解できます?相手だってそうではないですか。日本から相互理解と話を持ちかけられても、日本のなにがいいんだかわるいんだかわからなくては、なにを理解したらいいのか、わからないじゃありませんか」

─ 日の丸議論がとんだところへ…。

「日本では日の丸が大切にされない。大切にしないぶんには日本のことだからまあいいかもしれませんがね…。それは日の丸かさかさにしても日の丸でしょう。でも、インドネシアをさかさにすればポーランド、ガボンをひっくりかえすとスーダンの国旗になってしまうんですよ。それでは全然別のものではありませんか。旗のことだけいうから話がおかしくなる。国旗を尊重すること、それはその国民を、その国の歴史を、生活を尊重することだと思うんです」

─ ところでオリンピック入場式の先頭は?

「アフガニンタン。どんな国旗かご存じですか」

残念ながら、この最後の一行も本田記者の間違いです。オリンピックの開会式で最初に入場するのは、古代オリンピックの開催国ギリシャであるということは「オリンピック憲章」で決まっているのです。


ギリシャの国旗

ロンドン・オリンピックでももちろん、先頭はギリシャ選手団です。そして閉会式では電光掲示板の上に立つ3本のポールに左から次期開催国、開催国、ギリシャの国旗が掲揚されることになっています。

ところで、1998年の長野冬季オリンピック、この時に私は「式典担当顧問」という役職にありました。そして34年前の東京オリンピックの時とは「日の丸」を変えました。円を縦の3分の2に、つまり一回り大きくしたのです。そのことについてはまた別の日に述べたいと思います。

ロンドン・オリンピックのテレビ中継、日本選手の活躍はもちろん注目ですが、国旗にも少し目を向けてくださればと思います。

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