東京オリンピックの時のタディ②

吹浦君は旧赤坂離宮の組織委事務局内に机を一つあてがわれて、まず手がけたのはIOC(国際オリンピック委員会)加盟111か国の国旗の正しい型見本をつくることだった。

「甘くみて6割、厳密にいうと全部が全部、日本に出まわっている外国旗は間違いです」と吹浦君は確信を持っていう。

星のたりない星条旗

「ひどい例を一ついいましょうか。南ベトナム─ベトナム共和国。黄色の地に深紅の3本の横ジマがその国旗ですよ。3本の線はトンキン、アンナン、コーチシナをあらわしているのです。ところがですよ、ボクが手に入れたのは線が2本。トンキンはベトコンにやられているから2本にしたとでもいうのですかね。“内政干渉”ではありませんか。」

ひどいのは、枚挙にいとまがない。例をもう一つひけばイギリスのユニオン・ジャック。

これはイングランドのセント・ジョージ旗(白地に赤の十字)スコットランドのセント・アンドルー旗(青地に白の斜め十字)アイルランドのセント・パトリック旗(白地に赤の斜め十字)を重ねたものである。それがユニオン・ジャック(あわされた旗)の名のあるゆえん。

だがそのまま重ねたのではスコットランドの「白の斜め十字」が、アイルランドの「赤の斜め十字」に塗りつぶされてしまうので「赤の斜め十字」をわざとずらしてあるのだ。

ところが市販されているユニオン・ジャックには、アイルランドのかげにスコットランドがかくれてしまっているものがいくらもある。

日本にはなじみの深いアメリカの星条旗でさえ、50星であるべきものを49星、ごくひどいものでは47星として用いられている状態だ。

もちろん悪意でのことではないだろうが、ベトナム共和国からトンキンをとりあげ、イギリスからスコットランドを切りはなし、アメリカからハワイやアラスカを脱落させることが許されるものかどうか。

保留された日の丸

昨秋の東京国際スポーツ大会では、葉山のヨット会場でタイ国のプリンスに指摘されるまでよその国のものをタイ国旗としてあげていたり、千葉のレスリング会場では間違ったハンガリーとフィリピンの国旗をあげたままだったり…。

旗のない国はない。旗にはその歴史や宗教や建国の理想などが象徴されているからである。といって人間の考え方にそう大きな違いはない。たいがいのデザインは出つくしている。だからいまどんどん生まれているアフリカの独立国では、どんな旗にしたらいいかで頭を悩ましているというが、それはそれとして、一国の象徴とあれば尊重されなければならないのは理の当然。たかが旗ぐらいのことで、ではすまされない。だいいち、その国旗の由来を理解するだけで相互理解に大いに役立つのだから。

その大事な国旗の使用がたった一人の学生に託されている。ともあれ、旧冬24日、111か国の国旗製作の入札業務は終わった。

だが日の丸はある事情から製作を保留せざるを得なくなっている。「ハタでみるほど楽じゃないんですよ…」といってから吹浦君は苦笑したが、ある事情とはいったいなにか?

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