南太平洋、波高し②

野田首相は「島サミット」終了後の記者会見で「この地域で特段の紛争があるということではないので、特定の第三国を念頭においたものではない」と述べましたが、それは言わずもがな、このサミットは日米が連携して、太平洋地域で中国に主導権を握らせないという、日米両国の一致した思惑によるものといえましょう。

これに対し、中国は、豊富な外貨準備高を使って、経済援助を活発化させています。日本とはけた違いなのです。天然ガスを産出するパプアニューギニアへの援助は、2007年の約1千万ドルが09年には約1.2億ドルに急増。軍事政権下にあり、中国の影響力が大きく、今回は参加を取りやめたフィジーにも援助を続け、かつ軍事交流もしています。中国のこの地域への援助総額は05~09年で計約6億ドルとの試算もあるようです。しかし、各国は対中債務残高が膨らみ、トンガでは国内総生産の約3割を占め、返済能力を超えているなど懸念材料にもなっているようです。

中国はまた、軍事政権であろうと独裁国家であろうとカネにまかせて、お構いなしに接近するという「得意の手法」で進出を図っています。その典型的な例がフィジーです。フィジーは国旗こそ、英国の「ユニオン・ジャック(ユニオン・フラッグ)」を掲げていますが、1987~97年の10余年間は英連邦を離脱し、2006年のクーデターでできた軍事独裁政権にはオーストラリアが政権の正当性に異議を唱えて反目しあったり、政治的に微妙なものがあり、今回も「島サミット」には欠席しました。そのフィジーに中国は港湾建設、国会議事堂や放送局の建設等、公共投資を展開しているのです。

今回の「共同宣言」には、直接国の名前は明示しないとはいえ、中国を念頭に「新興ドナー(支援)国を援助協調メカニズムに関与させることが重要」と明記しました。これは、先進国が主導する経済協力開発機構(OECD)に加盟せず、政府の途上国援助(ODA)も一部しか公表しない中国を牽制したのです。

今回のサミットでは初めて海洋問題を議題に設定し、共同宣言には「海洋安全保障」や「海洋の安全」という言葉を盛り込み、国際ルール順守の重要性を確認したことは意義あると評価できます。

しかし、この地域での日本の存在感には翳りが見え始め、中国と台湾はそれぞれ外交関係を維持しようと、援助合戦や外交攻勢を激化させています。中国は06年に温家宝(ウェンチアパオ)首相がフィジーで各国との首脳会議を開催しました。

台湾は、その中国と外交面でしのぎを削り、パラオ、ソロモン、マーシャル、ツバル、キリバス、ナウルの5カ国(全世界では23カ国)とは依然、台湾と外交関係を維持しています。

米国や韓国、ロシアも昨年以降、首脳や閣僚級の国際会議を開き、さながら「太平洋争奪戦」の様相を呈しています。

こうした状況で日本ができることは、太平洋地域の青年300人を日本に招待することや深刻なゴミ処理に日本の技術を活かすなど「ソフトの重視」です。台風や津波、旱魃など自然災害に対応するリスク保険創設など、この地域の特性を考慮した支援策。今回も島全体に地下貯水システムを持つ宮古島に各国首脳を案内して、共通の悩みである浄水技術などを紹介しました。 

サミットでは島嶼国の対中債務残高が増加し、返済困難に陥っている現状も指摘されました。しかし、逆に中国はこの「島サミット」に合わせ、ミクロネシア連邦、サモア、トンガ、バヌアツ、そして中国の協力を見据えて参加を見合わせたフィジーの代表団を招聘し、王家瑞共産党対外連絡部長や賈慶林全国政治協商会議主席らが会談し、支援強化を約束して、先手を打ったのでした。「なかなかやるね」というのが率直な感想です。

「排他的経済水域(EEZ)の軍事利用や航行の自由など、米国と、沿海部の中国など発展途上国では条約の解釈が違います。立場の違いは両国の間に新たな衝突を引き起こす可能性がある」との中国側からの指摘もあり、次第に「太平洋の波高し」の間をつめてゆくのではないかと見られています。もはや日本の独壇場どころか、従来になく目配せをしてゆく必要が、この南太平洋にもあるように思います。現に中国は06年から首脳級政府間協議を始め、韓国やロシアも政府間での会議を開催し始めました。

それに比べ、日米両国はやや油断していたのか、関心が盛り上がらないうちに実態がどんどん進んでしまったようです。ただし、これまで書いてきたように、日本との縁、日本ならではの進出の仕方、影響力の用い方があるように思います。今後とも日本は、米韓台豪、NZなどと連携をとりつつ、太平洋を「中国の海」にしてしまうことがないよう、諸策を実行してゆかねばなりません。

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