【論点】「日の丸」の規格、法制化必要 吹浦忠正(寄稿)_読売


東京オリンピック(1964)で掲揚した
円の直径が縦の5分の3の「日の丸」

長野冬季オリンピック(1998)で掲揚した
円の直径が縦の3分の2の「日の丸」

もう19年も前になるのですね。以下の拙論「日の丸の規格 法制化が必要」が読売新聞の「論点」(1993年11月3日付)に掲載されたのは。

<「国旗国歌法」制定の前にそういう法律が必要だという議論はなかったのか>という質問を、福岡県の中学の教頭をしておられるS先生からいただきました。私自身、文藝春秋にも書いたことがあるし、このように「論点」にも書きました。NHKの「視点論点」でもお話しました。

確かに当時、自民党でこういう法案の準備に入りましたが、機熟さず、議案の提出までには至りませんでした。法制化は、結局、小渕内閣のとき、野中 務官房長官の尽力で実現しました。

そのときには、私は衆議院での審議で参考人として口述しました。今でも、若干、言い残している感じであるのは、かなうことなら法制化ではなく、全党一致の国会決議くらいでよかったと思います。心のどこかに、法制化してしまうと、いつの日かその法律の改定がありうるという、文字通り、一抹の不安です。

日本が☆やシマシマの国旗になることは金輪際ないとは思いますが、時に、そんな思いがよぎるのです。

また、菅前総理や前原民主党政調会長がそうですが、国旗国歌法に反対投票をした国会議員が結構いたことには呆れています。

自民党は今国会に「〈1〉国旗は白地の中央に紅色の日章旗とする〈2〉祝日や国の慶弔の時には国旗を掲揚する〈3〉国旗は厳粛に扱い尊厳を汚してはならない」を骨子とする「国旗法」案を提出することになったという。

私は東京オリンピックの時、専門職員として組織委で各国国旗を担当したが、実は参加各国の旗のデザインを決めるに当たって、一番困ったのが、「日の丸」であった。

他の国々については、約三十の内外の文献、各国憲法、国旗法などに基づいて製作した国旗を各国の国内オリンピック委員会(NOC)に送付し、これを確認してもらってから使用し、問題がなかった。

しかし、「日の丸」については承認ないし確認のため持って行くべきところがなかった。

そこで、とりあえず、国会議事堂、首相官邸、外務省、文部省などで実際どんなデザインの「日の丸」を発注し、掲揚しているかを調べたところ、これが全くといっていいほどバラバラだった。

無理もない話で、わが国には国旗のデザインを決めた法が整備されていないからである。

そこで、組織委では関係省庁からも人を招いて意見を聞いたり、デザイン委員会で検討してもらうという過程を経、オリンピック憲章と照らして、東京オリンピックで使う「日の丸」を選んだ。

「日の丸」について、はっきりとしたデザインの提示をしているのはいくつかあるが、その代表的な例を挙げると、以下の四つになるであろう。

第一は、明治三(一八七〇)年一月二十七日の太政官布告第五七号で定めた商船用のもの。

「縦横比七対十、円の中心は対角線の交点より横の百分の一旗竿側に寄った点、日章の直径は縦の五分の三」というもの(「五七号型」)である。

第二は、同年十月三日の太政官布告第六五一号で定めたもので、「縦横比二対三、円の中心は対角線の交点に一致、日章の直径は縦の五分の三」というもの(「六五一号型」)である。

「海軍軍船の掲ぐべき御国旗」というものだ。

第三は、昭和三十七(一九六二)年の「日宣美」展で永井一正氏など三人が共同提案したもの(「永井型」)。

「六五一型」の日章を「縦の三分の二」に拡大したものである。当時の読売新聞「編集手帳」はこれに賛同するという応援をしている。

第四は、日本航空が所有する機体に描いているもので、同社広報部によると、「六五一型」の日章の直径を「縦の十分の七」にしたもの(「日航型」)である。

太政官布告第五七号は今でも法律として有効なものであるのに対し、「六五一型」は海軍に関係するものであるため、日本国憲法の発効とともに失効した。「永井型」や「日航型」に法的根拠がないことはいうまでもないが、「永井型」は「国旗にまつわるそれまでの暗いイメージを一新する」というネライがこめられたものだし、「日航型」は「白く大きな機体に描くには赤い丸が大きめの方が良い」と考えたのではないだろうかと思われる。

今一つの問題は色だ。

現実に用いられている「日の丸」の赤は文字通り「十人十色」である。アメリカの「星条旗」、イギリスの「ユニオン・ジャック」をはじめ、各国旗の中には、明度、色相、彩度の色の三要素で決めたり、色標番号や特定のインクの混合率で指定したり、はてはアルジェリア国旗のように光の周波数で規定されているものまである。

自民党案では「紅」とあるが、光学的ないし色彩的にいったいどんな色なのかあいまいである。

法律として制定するならば、少なくとも国旗についての基礎的な調査はもちろん、各国の憲法や国旗法、色彩の表示法などについて十分な検討がなされてしかるべきである。

「日の丸」がわが国の国旗であるのは「東京が日本の首都である」のと同様、慣習法で確立されているものであり、漠然とした拙速の法律は不要である。

肝心の「日の丸」がどんなものかさえ決められなければ、広島のアジア大会や長野五輪のみならず、いろんな場面で困惑する。

私たちは実際に、使用中の国旗を分析したりして、日章の赤の特定化もしたが、断っておくが、私は実際の製作上の都合などを考え、これを直ちに法的に規定せよというものではない。

ただ、〈1〉縦横比〈2〉円の中心の位置〈3〉日章の大きさについては十分な検討を重ね、法制化しておくべきものと考える。

ただし、使用については国際的に確立されたエチケットに従うことで十分であり、学校教育、社会教育を通じて指導すればよいことであって、祝日等で掲げさせるとか、汚してはならないなどと決める必要はないといいたい。

まして、国旗の問題は七党一派の連立与党を分裂させる格好の材料だ、といった発想で自民党がこの問題を提起しようというのならば、それこそ、国旗を冒涜(ぼうとく)し、汚すことであると思う。

吹浦忠正 ふきうら・ただまさ(国旗研究家)

結局、このときには規格が法制化しませんでしたので、その5年後の長野冬季オリンピック(1998)では、私は組織委員会式典担当顧問として、国旗の発注、点検、掲揚に全責任を持ち、東京オリンピック(1964)とは違う「日の丸」を使用しました。

異なる点の第一は、円の大きさを縦の3分の2にしたこと、第二は、白の白度を高め、純白にしたことです。

いずれも、冬のオリンピックの背景やイメージが白であり、長野オリンピックの1年半後に成立した「国旗国歌法」による円の大きさ(縦の5分の3)を少し超えたほうが美しいと確信したからです。

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