小さな島の4つの国旗 キプロス国旗物語

キプロスの国旗。但し、現実には南部のギリシャ系地域内ではギリシャ国旗(中央左)が、北部では北キプロス国旗(中央右)やトルコ国旗(右)が幅を利かせているのです。

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全国紙がいっせいに、しかし小さく、AP通信を引いて、2012年1月13日、ラウフ・デンク元北キプロス・トルコ共和国大統領が多臓器不全のため入院先のニコシアで亡くなったことを報じています。享年87。合掌。

キプロスは総面積が9250平方キロ、山形県(9323平方キロ)とほぼ同じ面積(シチリア、サルディニアに継ぐ地中海第3の面積。国連加盟国中162番目の大きさ)にすぎません。しかも、南部のギリシャ系、北部のトルコ系住民が対立し、国土が2分されているのです。人口(約87万人)の8割近く、面積の63%をギリシャ系が実効支配しています。 

この対立は、1974年7月15日にギリシャ軍主導のクーデタが起き、これに対する対応としてトルコ軍が同月21日に北部に進駐、83年11月15日にはトルコ軍支配地域に「北キプロス・トルコ共和国」(より厳密には「北キプロス・トルコ系住民共和国」)を樹立したことに始まります。

そして、デンクタシュはトルコが占領した北部を代表してキプロス・トルコ連邦国を宣言し、その初代大統領に就任した人です。「北」に言わせれば、連合国家キプロス共和国は83年に解体し、「南」ではギリシャ系住民が勝手にキプロス共和国と名乗っているだけであるというのです。ですから、キプロス共和国を国として認めず、その支配地域を「南キプロス・ギリシャ系住民管理地域」と呼んできたほどです。

このように、2005年まで5期20年、大統領の任にあったデンクタシュは終生、南北の再統合には反対の立場を貫きました。

それでも、「南」(キプロス共和国)は国連に加盟しており、193の国連加盟国中、トルコを除く192カ国が承認しています。これに対し、「北」は独自の“国旗”を掲げて張り合っています。1884年にコンペによっていかにもイスラムを信奉する地域であるというデザインの“国旗”を採択しました。もっとも、「北」を国家として承認しているのは、トルコのみ。トルコは「北」に自国の軍を駐留させさえしています。

2004年には国連が連邦制による再統合案を示して交渉を仲介し、南北同時住民投票を行いましたが、ギリシャ系住民である南側の反対多数により否決されてしまいました。これによって、EU(ヨーロッパ連合)が北キプロスの経済支援を開始し、直接通商も認めることになり、北キプロスの国際社会復帰に向けての第一歩が進みました。

一方、「南」は2004年5月1日、EUに加盟を果たしました。

幸い、2008年2月に新しく当選した「南」のフリストフィアス大統領が柔軟な姿勢を取っていることもあって、40年に及ぶ分裂と対立は解消に向けて、南北は少しずつ歩み始めている様子です。国連としても、加盟国のこうした対立を座視しえないとし、2008年7月にダウナー前豪州外相を事務総長特別顧問として派遣し、南北の調停に当たりました。
ギリシャとトルコはともにNATO(北大西洋条約機構)の構成国ですが、積年の対立となってきたキプロス問題の解決がなければ、悲願ともいうべきトルコのEU加盟は果たせそうにありません。この問題を抱えたままでは、それでなくとも宗教的基盤を異にするEU側も、おいそれと歓迎するわけにはゆきません。

ところで、キプロスの国旗は白地の中央にキプロス島を金色のシルエットで描き、平和の象徴であるオリーブの枝を配すという、国連旗のデザインに倣ったものです。国土の平和を願っての国旗です。しかし、現実には「北」ではトルコ国旗が多く掲揚され、外国では、公式にはトルコにある代表部でのみ「北」の“国旗”が掲げられているに過ぎません。

キプロス(「南」)の国旗の中央には、キプロス島をシルエットにしたものが、描かれています。やや濃い目の黄色なのはこの島が黄銅を算出することを表わし、豊かな国づくりを目指した象徴です。そして、それを『旧約聖書』の「ノアの方舟」以来平和の象徴とされるオリーブの枝で囲んだものです。このデアインを採択し、ギリシャ国旗の青とトルコ国旗の赤を避けたのも、双方の対立を緩和して、平和と発展がもたらさせることを祈念してのことでした。

キプロスの国章は、1960年の独立直後、マカリオス3世初代大統領(キプロス正教会首座主教)と、当時の副大統領でトルコ系市民の政治団体の指導者だったファーズル・キュチュクによって採択されたものです。デザインしたのはキュチュク副大統領の友人 Ismet Güney でした。そうした経緯から、南北双方の国章は、今も酷似したものになっています。

はたして、デンクタシュの逝去が、南北和解のきっかけとなることを、期待してはいけないのでしょうか。

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