ウクライナから分離を図った「国々」

マレーシア航空機撃墜事件で亡くなられたオランダやマレーシアの人々を始め、298人になんらんとする人々のご冥福を祈ります。合掌

モスクワで音楽を勉強しているSさんから、「ウクライナから分離独立をしたといって何ヵ国かが新しく国旗をさだめたとの報道があります。当地では新聞の写真でもモノクロだったりして、よく判りません」とそれぞれの「国旗」を紹介してほしいとの要請がありました。

Sさん、まずもって、これらは勝手に国旗と称しているだけで、国際社会はどこも承認しているわけではないのです。おそらくは同じ人がデザインしたのではないかというような、ウクライナ東部諸「国」の国旗のデザインですね。

最初に動いたのはクリミアです。しかし、クリミアの独立は認めたロシアでさえ、これを自国に吸収してしまったのですから、百歩譲ってそれを認めるとしてもクリミア共和国は独立国ではありません。


クリミア共和国

クリミア半島にはクリミア自治共和国とセヴァストポリ特別市がありました。2014年2月の首都キエフを中心とするウクライナでの騒乱、当時の大統領のロシアへの脱出、ロシアのクリミア半島への侵攻を経て、議会での独立宣言の採択、ロシアへの編入かウクライナの下での自治権拡大かを問う住民投票の実施と激動しました。

その結果、ロシアへの編入賛成が圧倒的だったため、議会は投票日の翌日である3月17日にクリミア半島全体がクリミア共和国として独立し、ロシアへの編入を求める決議を採択しました。翌18日、プーチン露大統領は編入要請を受け入れることを発表したのです。

国際社会は1954年に法的にウクライナ領となったクリミア半島の武力による領有を認めず、経済制裁に入っています。

これに刺激されたウクライナ東部の親露派のデモ隊が、4月7日、ドネツク州議会を占拠し、「人民会議」を開催し、同会議は「ドネツク人民共和国」建国を宣言したのです。ウクライナ政府は厳しく批判したのは当然です。

5月16日、アレクサンドル・ボロダイがこの人民共和国の首相に就任しましたが、行政機能は事実上停止しているし、ロシアを含めてこの「国」を承認している国はありません。

同日夜、ハリコフ人民共和国もハリコフ市庁舎を占拠したデモ隊によって宣言されました。デモ隊はさらに他の行政庁舎に放火し、また、地元テレビ局も占拠されました。しかし、こちらは翌日、ウクライナ政府軍に消滅させられてしまいました。

すなわち翌8日、ウクライナ内相のアルセン・アバコフが市の中心部の封鎖を行い、市庁舎を解放し、その際70人の親露派武装勢力を逮捕したと発表したのです。ハリコフ民共和国は僅か1日で滅亡したわけです。

なお、武装勢力はハリコフ民共和国Харьковская Народная Республикаと称しましたが、その掲げる「国旗」の上下にはНародная(ナロードナヤ=人民)の単語がありません。

次に親露派武装勢力は4月27日、ルガンスク市の国家安全保障ビルの前で、ルガンスク人民共和国の建国を宣言しました。そして5月11日住民投票を行い、翌日、再び独立を宣言したのです。さらに24日、ルガンスク人民共和国はドネツク人民共和国と「ノヴォロシア連邦」を結成したと伝えられますが、その実態はよくわかりません。Sさん、モスクワの新聞にこうした情報がありましたら、PDFででもお送りください。

マレーシア航空機撃墜事件を受け、ウクライナ情勢はいよいよ難しさを増してきました。これが、未だプーチン大統領の今秋の来日による日露関係改善に大きな期待を寄せるだけで日本の対応が済むのか、国際社会と強調したきちんとした対露外交をすべき時ではないかと確信しています。それはロシア国内の政治状況や世論がウクライナ問題で世界的に孤立を深めている中にあって、いかなる形であれ、日本に妥協できる状況にないからです。

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