主権国家ウクライナの領土保全は絶対条件

親ロシア政権が崩壊したウクライナに、ロシアのプーチン大統領が軍事介入に一歩を踏み出し、ロシア黒海艦隊が駐留するウクライナ南部のクリミア半島をロシアの軍事支配下に置いた。ウクライナ軍は基地内に閉じ込められたままと報じられている。クリミア半島はプーチンの掌握下になった。


ウクライナの国旗

EU(欧州連合)の旗

ロシアの国旗

形の上では、クリミア自治共和国のアクショノフ首相が1日、「平和と安定のための協力」をプーチン氏に要請。プーチン氏はこれに応じる形で、ロシア上院に軍を展開させることへの承認を求め、可決されたという、ロシアの国内法的手続きに従っただけだ。

これはまさに、親露派の武装部隊や半島の6割を占めるロシア系住民の後押しを受けて首相に就任したアクショノフ氏が、ロシア側が描いた筋書きに従って支援の要請を行ったということに違いない。自治共和国のロシアへの帰属の是非を問う住民投票を当初予定の5月25日から3月30日に繰り上げる考えを示したのも同じ線上の動きであろう。住民の9割がロシア語をしゃべるという地域だけに、この住民投票が実施されれば情勢はさらに混迷の度を増すであろう。主権国家の領土保全は国際社会の健全な維持にとって絶対条件であり、ロシアが武力を用いて隣国ウクライナを自由に分割するようなことがあってはならない。

ただし、一定地域の住民が国家からの分離を求めれば、その要請で外国軍隊が進駐できたり、新たな独立国を樹立できるとは限らない。現に、バルセロナを中心とするスペインのカタルーニャ地方、北西部のバスク地方、さらには中国のチベットや新疆ウィグル地方など、枚挙に暇がないほど世界にはこういう問題を抱えている地域が多い。アジアでもミャンマー、バングラデシュ、インドネシアなどにも同様の動きはある。現にロシアにも、チェチェやカタルスタンなどで投票の自由が確保されれば、いくらでもあると言えよう。

ロシアはさらにキエフなど西部で反政府活動に抵抗した一般市民にも希望に応じてロシアのパスポートを支給するという。これは重大な内政干渉に他ならない。

一方、2月21日に首都キエフを脱出し、しばらく行方をくらませた後、ロシア国境を越えて姿を現したヤヌコビッチ前大統領の復帰はもはや不可能であることから、ロシアはクリミア半島を自国の影響が及ぶ地域、またはあわよくば自国の新たな自治共和国へ編入するという方針に転じたとみられる。

ウクライナ新政権はこうした動きに対し当然、猛反発している。

内外の報道に拠れば、親露派の多いウクライナ東部の2つの工業都市、すなわちハリコフとドネツクでも親露派による大規模デモが繰り広げられた。ハリコフでは、約2万人が親EU政権がキエフ誕生したことへの抗議デモを展開。デモ隊の一部が自治体庁舎に乱入しようとし、数十人が負傷したという。また、ドネツクでも、クリミア自治共和国で続く親ロシア派の動きを支持する1万人以上のデモがあった。

プーチン大統領の論理は「ロシア系住民の保護を掲げた軍事介入は許される」という旧態依然の“国際法”。これを許せば、世界の国境は大混乱を起こす。林話が、在日韓国・朝鮮人が何かを起こせば、韓国や北朝鮮が軍事介入できることになる。今回、クリミア半島が紛争地となれば、新政権が目指す欧州連合(EU)加盟の深刻な障害となる。今回のソチ五輪直後というタイミングでクリミアに進駐したのは2008年の北京五輪直後のグルジア戦争と酷似している。

いずれも同じ旧ソ連構成国であったこと、「ロシア国民やロシア系住民の保護」を目的として外国にロシア軍を出動させるこの手法は、周辺国に大きな圧力となり、自由な国家運営を牽制するために繰り返されてきた。

グルジア紛争は、グルジアからの独立をめざしていた南オセチア自治州に対し、グルジア政府が自国の領土である同自治州に軍を進めたのが発端。これに対し、ロシア軍はグルジア領内を空爆し、地上軍をグルジア中心部にまで進めた。進行理由は自治州内の「自国民の保護」。

ロシア軍は、南オセチアや同じ立場にあるアブハジア自治共和国に90年代から「平和維持軍」として駐留。住民らに自国のパスポートを配布した。それでいながら、国際社会のほとんどの国がこの2カ“国”を承認しないまま、南オセチアとアブハジアを一方的に国として承認した。しかし、ソチ五輪への参加も競技の応援も認めていない。

ウクライナの隣国モルドバも、90年代からロシア軍の介入で事実上の独立状態になった沿ドニエストル地域を抱える。こうした旧ソ連の国々で起きた地域紛争の多くは、ロシアが一方を支援することで激化し、長期化している現状だ。傍若無人のロシアの動きに、欧米諸国や日本は6月に予定されているソチでのG8サミットの準備会合の延期という小さな対応から始めた。当然のことであるが、事態の推移によっては、これに会議そのものの中止、ロシアの除名、経済関係の制限など打つべき手は少なくないはずだ。

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