日本政府、対露交渉活発化を考慮し、軟化か – 安易な一連の対応を危惧

昨今、永田町周辺や霞ヶ関でもっぱら話題になっていることの1つに、安倍晋三首相が外交上の成果を上げている中で、特に、プーチン露大統領との、就任以来4回の首脳会談を行い、政府レベルでの日露間協議が活発化していることから、北方領土をめぐる両国の輿論が先鋭化しないよう、一連の「軟化」政策や対応をとっているのではないかということがある。事実とすれば、大いに危惧するほかない。


日本の国旗
北方領土は日本の主権にかかわる問題であり、日本人の矜持が試されていることを忘れてはならない。

ロシアの国旗

「軟化」政策の第一は、北方領土問題に関連する広報動画の作成を当面見送ったことである。これは、10月16日から外務省のHPで韓国が不法占拠している島根県の竹島や中国が領有権を主張してさまざまな圧力を加えてきている沖縄県の尖閣諸島について掲載していることとは大きく異なる対応である。

竹島・尖閣諸島編を立ち上げたことについては中韓両国が強く反発したが、独立行政法人北方領土問題対策協会(北対協)のHPでは依然、表紙の冒頭で「ロシアの不法占拠」と表示し、YouTubeの動画(4分38秒)でもその表記になっているが、これが削除されたり、表現を変えたりするかどうかは、今後、注目に値しよう。

第2は、その内閣府所管の北対協による「ビザなし」訪問でのベテラン訪問者はずしである。“定点観測”要員であり、スムーズな交流を中心的に進め、現地人とも厚い信頼感を築いてきた多重訪問者の訪問を認めず、45歳以上の通訳を不採用とする「定年制」を設けたことだ。

また、北対協は役員人事から「うるさ型」の外部理事二人を排除したことも注目に値する。安全保障問題研究会の会長(当時)である佐瀬昌盛防大名誉教授と、外務省からは都甲岳洋元駐露大使、茂田宏元駐露公使(元駐イスラエル大使)の二人がこれまで順に理事を務めてきた。任期の長期化や高齢ということもあってか、この二人をはずし、後任には、元中学校長を任命し、近く、「ノンキャリ」の元ユジノサハリンスク総領事(後にアゼルバイジャン大使)が就任するということである。中学の教師という仕事は私の最も尊敬する職業であり、元総領事とも昵懇でありすばらしい方であるが、理論派の二人をはずしてしまうことについて、ロシア側には「日本は軟化した」とのシグナルを送ることになり、日本では政府への不信感を募らせることになりかねない。

今一つの懸念は、来春2月7日(日)に行われる北方領土返還要求全国大会のことだ。鈴木善幸内閣の時代にこの日を「北方領土の日」とすることが閣議決定され、以来全国大会はこの日に行われ、時の首相が出席することが慣例になっている。しかし、2014年のこの日は、ソチ冬季五輪の開会式の行われる日であり、安倍首相は間違いなくこれに招待されるはずである。先にブエノスアイレスで行われた2020年の東京五輪招致でお世話になったからと言って、軽々にこれに出席していいものかどうか、これは慎重に検討していただきたい。時期的に衆議院では予算委員会の真っ只中であり、1998年の長野での冬季五輪の時に、橋本龍太郎首相が北方領土返還要求全国大会を欠席したという先例があるとはいえ、それはその冬季五輪の主催国であり、各国から首脳を始め賓客が集う場であったからであり、正常化していない国交関係にあるロシアでの五輪開会式に出向くべきか否か、慎重に対処してほしいと願わざるをえない。IT時代の今はソチからの映像で北方全国大会に参加することもできないわけではないが、それでは「主権よりもスポーツ大会が大事」ということになりかねない。

最後に気になるのは、谷内正太郎内閣官房参与(日本版NSC局長予定者)が11月11日、都内で行った講演での発言である。「どういう形の『引き分け』であれば両国民を説得しうる内容になるか話し合おうと、ロシア側に持ちかけるべきだ。対話の窓口を空ける機会をきちっとつかむ外交をやっていかなくてはいけない」。

私は島の数での「引き分け」には断固反対する。「引き分け」は実質的な形であるべきで、国際法を軽視した島の数や面積によるものではなく、シベリア開発など経済や資源の面での特別な配慮で、プーチン大統領をはじめ、ロシア国民を納得させなくては、わが国の国際的な信頼を損なうことになり、今後、主権に関わる他の課題にも大きな影響をもたらすことになろう。

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